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【ブログ】 3Dプリント技術を医療機器に応用:FDAが付加製造分野の規制に乗り出す

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執筆者:エリン・ボスマンジュリー・パークオースティン・マーシュ
日付:2018年01月16日

12月、米国食品医薬品局(FDA)は、付加製造技術を用いた医療機器を巡る技術的検討事項に関するガイダンスを発表した。ガイダンスは、医療機器の付加製造(AM)(3Dプリント技術と概ね同義)に関する規制上の方向性を提示しようというFDAの取り組みを示すものである。具体的には、AMとは、2次元の層を連続的に積層し、それぞれの層をその下の層に接合させることによって物体の形状を形成する技術をいう。AM技術を用いることにより、機械を改造したり、コンポーネントを生成するための複雑な製造機械を製作することなく、多様なモデルを設計することが可能となる。今般発表されたFDAのガイダンスは、AMの技術的側面に主眼を置いており、(1)設計・製造に関する検討事項、及び(2)機器のテストに関する検討事項という2つのテーマに分けて構成されている。FDAは、ガイダンスについて、AM技術を用いた機器に関する「あらゆる検討事項に包括的に対応するものではなく、また、その製造に係る品質保証制度を確立するための規制上の要件を定めるものでもない」とした上で、付加製造されたコンポーネント或いは積層造形プロセスを一つでも含む機器について、テスト及び適性評価を実施することを推奨している。ガイダンスは、同局が現在、医療機器向けのAM技術についてどのような見解を抱いているかを反映した内容ともなっている。
 
AMは急成長を遂げている技術であり、数多くの医療機器に応用されている。オーダーメイド医療の実現に向けたステップの代表格ともいえるAMにより、患者自身の医療画像を使用して解剖学的にカスタマイズされた機器や手術器具(「個別患者にカスタマイズされた医療機器」と呼ばれる)を造ることができる。AMにより、他の方法では製造することができない、或いは、従来の製造方法では製造コストがかかりすぎるといった複雑な幾何学構造も形成することが可能となる。こうした技術は人命救助に役立つものとなるかもしれない。例えば、2012年には、FDAから緊急承認を受けた後、ミシガン大学の医療スタッフがAMにより生体吸収性気管スプリントを作製し、重篤な気管支軟化症により虚脱性呼吸困難に陥っていた乳児の命を救うといった事例があった。乳児の気道に移植されたスプリントにより気管が広がり、その後の順調な生育が可能となった。この乳児は、数週間のうちに人口呼吸器を外し、普通に呼吸することができるようになった。AMがこの乳児の生命を救ったのだった。

FDAは、AMの有益性を認識し、「医療に変革をもたらすことがほぼ確実な新技術の大波」に対する準備を進めている。とは言え、FDA長官は、AMプロセスの革新的側面には医療現場における経験と臨床試験が大きく欠如していることを十分に認識しているとした。このため、細心の注意を要する医療の現場においてAM技術が使用されることには課題が伴うとされ、FDAは、メーカーが「最終完成品に関する最適な適性評価や評価方法、或いは、これら機器に関する最適なプロセス評価や検収方法の決定」に苦慮する可能性があると予想している。

FDAはこれまでに、AM技術を使って製造された医療機器について、100件を超える審査を行ってきた。また、最近では、3Dプリンターを使って製造された多孔性の層に従来の手法で製造された場合よりも多くの薬剤を含ませた抗てんかん薬を承認した。これにより、口の中で薬剤を急速に溶解させることが可能となった。FDAは更に、AMが今後、火傷の処置や[生体臓器を]代替する人工臓器[による治療]につながる可能性があると予想している。

設計・製造プロセスに関する検討事項
FDAは、今日から明日への革新に向けた橋渡しに資するという意味で、この文書を「リープフロッグ型」ガイダンスに分類している。
 Moore, Nicole, 3D Printed Splint Saves the Life of a Baby, Michigan Engineer News Center(2013年5月22日)、https://news.engin.umich.edu/2013/05/3d-printed-splint-saves-the-life-of-a-baby/.
 FDA長官スコット・ゴットリープM.D.の医療製品3D印刷という新たな時代をFDAが先導することについてのコメント(2017年12月4日)、https://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm587547.htm.
 前掲。
FDAは、標準的な市販前承認審査の申請を、従来型の技術により製造された機器と同様にAM機器にも適用する方針である。したがって、クラスII及びクラスIIIの機器(並びに一部のクラスI機器)については、メーカーは「21 CFR 820.30 Design Controls(設計管理書)に従って、一定の設計要件を満たすよう、対象機器の設計を管理する手続きを確立し、維持しなければならない」。FDAは更に、メーカーに対して、「機器が設計通りに動作するよう、AM機器の製造プロセスの検証を含む手続きを確立」するよう求めている。特に、事後の検査やテストではプロセスの最終結果を十分に検証することができない場合には、かかるプロセスについて「高度の保証を与える検証を実施し、確立された手続きに従って承認を行う」必要があるとしている。

AM技術やプロセスの一部が医療機器に使用される可能性があることを踏まえ、ガイダンスはメーカーに対して「プリンティングプロセスの各段階を明確に開示する」ことを求めている。その一環として、FDAは、製品の品質を確保するため、重要な段階についてそれぞれ概要を詳細に記載することと併せて、製造フローチャートの使用を推奨している。プロセスの各段階の説明には、「かかるプロセスの説明、プロセスパラメーターの明記及び出力仕様」を含めることとされている。メーカーが製造上の欠陥から生じる不具合の根本原因を特定し、これを是正することができるよう、それぞれのプロセスの段階毎に詳細な説明が記録されている必要がある。プロセスに関するこうした詳細な指示書がなければ、欠陥を特定し、是正することが難しくなるおそれがあるためである。AMプロセスは、特定の使用シナリオへの変更や対応が簡単にできるため、最終的な機器又はコンポーネントの寸法仕様のほか、製造する機械の製作公差を適切に記録する必要がある。

個別患者にカスタマイズされた医療機器については、追加的に考慮すべき事項がある。こうした機器は、(個々の患者に合わせて作られるために)「標準的なサイズのテンプレート」がなく、臨床現場のデータに応じて、医療スタッフ、機器のメーカー又は第三者によって変更される可能性が生じる。このようにカスタマイズが可能であるため、メーカーは「臨床的に関連する設計パラメーター、かかるパラメーターについて事前に定義された範囲(最小値/最大値)、どのパラメーターが患者ごとにカスタマイズ可能かを明記しておく必要がある」。ガイダンスの中で個別列挙され、メーカーに対して可能な限り対応すべきであると推奨されている事項は以下のとおりである。(1) 画像の効果及び必要性、(2) 臨床及び患者と設計モデルとの相互関連性、(3) 複雑な設計ファイルにおけるデータの統一性の保持、及び(4) 個人が特定され得る情報に対する(サイバー)セキュリティ。

FDAは、「AMは、複数のソフトウェア・パッケージ間の互換性の問題が関係するケースが一般的であり、そうしたソフトウェア・パッケージはメーカーが異なるものも多い」とした上で、それ故に、ファイルの変換やソフトウェアの互換性のエラーがAMプロセスや最終的な機器の品質に悪影響を及ぼすおそれがあるとしている。こうした理由から、FDAはメーカーに対して、「特に、個別患者にカスタマイズされた医療機器については、期待される性能を確実に発揮できるよう、ソフトウェアのワークフロー検証の一環として、最終製品の重要な属性や動作基準を検証すること」を推奨している。

また、機器の設計が完了したら、メーカーはさらに次のような予備的プロセスを検討すべきである。
· ビルドボリューム内の機器又はコンポーネントの配置、向き及び充填密度
· 一定の設計上の機能について追加のサポート材又は構造体の利用
· 層ごとの印刷プロセスに関してAM機が生成する各「スライス」の積層の厚み
· エネルギー又は材料照射システム(例:レーザー又は押出成形機)がトレースするビルドパス又はパス
· 必要とされる機械パラメータ及びキャリブレーション(例:ビルドスピード、総エネルギー密度及び焦点又はノズル直径)
· ビルドボリューム内の環境条件(例:温度、圧力及び空気組成)

FDAは、AMプロセスで使う材料についてはこれを詳細に記録し、使用するAM技術、最終医療品の利用目的その他入手可能な情報に基づいて選択することを推奨している。一定材料のリサイクル(AM技術の利用にあたり可能なこと)は認められるが、綿密な記録を残すべきである。また、リサイクルが最終的な機器に悪影響を及ぼさないという証拠の提供が必要である。機器の性能と材料特性に影響を与える可能性のあるAMの後処理プロセス(印刷プロセス後に発生する製造工程)も詳細に記録し、その工程が及ぼし得る影響の分析も含めるべきである。

上述のとおり、あるプロセスの最終結果がその後の検査及びテストで十分に検証できない場合、その検証には高度の保証を与える必要がある。そのような検証プロセスについては、データの監視と制御方法を記録する必要がある。そのような方法としては、次のようなパラメータを監視及び記録する方法が考えられる。
· ビーム焦点の温度
· メルトプールのデータ
· ビルドスペースの環境条件
· ビルドボリューム内に機器又はコンポーネントがビルドされた位置
· エネルギー照射システムの出力
これと同じ方法は、検証が義務付けられていないプロセスにおいても有用となり得る。

機器のテストに関する検討事項
概して、FDAは、AM生成品の性能テストが、その機器が従来の製造方法により製造された場合と同じ方法で実施されるべきだとしている。機器の種類により、次のようなテスト方法がある。「係数、降伏強度、終局強度、クリープ/粘弾性、疲労又は摩耗などの材料特性テスト」また、性能テストはすべて、後処理、洗浄及び殺菌工程を経た完成機器で実施する必要がある。メーカーはまた、製品の十分な性能を確保するため、材料の寸法、特性及び向き並びにビルドスペース内の位置を「最悪の組合せ」にした条件でテストを実施するべきである。これらのテストには、組合せの選択方法と各テストを実施した理由についての考察が含まれている必要がある。メーカーは、AM生成品を評価する際、「テストクーポン」(機器又はコンポーネントの代表的なテストサンプル)を作成し、これを維持する必要がある。

FDAは、AMプロセスが従来の製造方法と比べて最終製品のばらつきを大きくする可能性があることを認識しており、メーカーに対して、代表的な生成品サンプルの測定により事前に設定した寸法公差を明示し、これを遵守するよう推奨している。複数の研究によりこのようなパラメータに基づくばらつきの存在が判明している場合には、メーカーは、向きとビルド位置に起因するばらつきに対処する必要がある。一貫性を維持するため、生成品の測定は複数回のビルドサイクルから得たサンプルで行う必要があり、メーカーは使用されるサンプリングスキームが正当であることの理由を提供するよう求められる。最後に、プロセス検証情報は、異なるビルドサイクル又はバッチの生成品間で軽微なばらつきがあることを示すのに役立つ場合がある。

AMが有する反復性により、当初の材料は部分的な再溶融及び硬化を何度も繰り返す可能性がある。これにより予期しない、又は望ましくない材料組成が生じる可能性がある。多くのAM医療機器は慎重を要する医療状況で使用される(しばしば外科的に患者に移植される)ことになるため、メーカーは、生体適合性テストを行うとともに、必要に応じて「Use of International Standard ISO 10993-1, "Biological evaluation of medical devices - Part 1: Evaluation and testing within a risk management process”」に記載されたガイダンスの内容を実施する必要がある。AM機器が吸収性材料を使用する場合、特定のテスト(例:イン・ビトロ(in vitro)分解テスト)が必要になる場合がある。

AM機器が有する大きな利点のひとつは、非常に複雑なコンポーネントや最終製品を作ることができる能力である。ただし、その優位性には、AM機器を洗浄殺菌するのが非常に難しい場合があるという固有の欠点がある。またAMでは、多孔質構造の物を従来の方法よりも製造プロセスの早い段階で作ることができるが、これにより、その後に他のAM材料に晒されることで汚れが大きくなる可能性がある。したがって、メーカーはワークフローを作り、残りの材料残留物が機器の品質に悪影響を及ぼさないことを検証できなければならない。この情報の概要は、市販開始前に当局に提出する文書に記載する必要がある。また、上述のガイダンスでは、最終使用施設の多くが、残留製造材料を除去するために定められている、現場での洗浄手順の実施に必要な装置や材料を入手できないだろうと警告している。したがって、十分に洗浄された機器のみがエンドユーザーに提供されるべきである。

ラベル表示
最後に、ガイダンスには、AM機器のラベル表示は「適用規則、機器に特化したガイダンス文書及び認定規格に従って作成すべきである」と記載されている。個別患者にカスタマイズされたAM機器については、表示内容の追加が推奨されている。FDAは、このようなラベル表示で(1)患者名、(2)使用した製品(例:左末梢大腿骨サージカルガイド)(3)機器の生成に使用した設計バージョンを明示するよう推奨している。個別患者にカスタマイズされた医療機器の有効期限も表示する必要がある。撮像と手術の間に患者に何らかのイベントが発生する可能性があるため、FDAはメーカーに対し、患者が手術前に身体上の変化の可能性について検査を受けるべき旨の注意をラベル表示に含めることも推奨している。

結論
法的拘束力はないものの、メーカーはAMに関するFDAのガイダンスに記載された推奨事項の採用を検討すべきである。FDA発行の他のガイダンス文書と同様、今後定められる規則も、これらの既存ガイドラインを組み入れ、これをさらに詳述するものになる可能性が高い。

英語版はこちらのリンクをご覧ください。

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モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 伊藤 見富法律事務所(外国法共同事業事務所)
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Eメール: tokyomarketing@mofo.com


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